家族信託は必要ない?その考え方と具体例

家族信託が必要なケース

まず初めに、家族信託が必要なケース、つまりは、家族信託を利用しなければ目的の達成が困難なケースについてご案内致します。

積極的な財産の活用や相続税対策をされたい場合

不動産の買い替えや、建替え新築、築古アパートのリノベーション、不動産から金融資産への運用転換、不動産交換、不動産から金融資産運用転換、金融商品運用継続等、財産活用といっても様々ですが、いずれにおいても、判断能力が著しく低下している状態ですと、取引が困難となり、実行できないリスクがございます。また、相続税対策は、こうした財産活用による結果として生じさせる手法が多く、これも実現できないリスクが生じてしまいます。
こうした行為は、家族信託同様に資産凍結の対応手法として挙げられる後見制度では、その趣旨に該当せず、制度上も実務上も困難です。そのため、積極的な財産の活用や相続税対策を親の代で行いたい場合には、家族信託の利用が必要と言えます。

受益者連続型信託の仕組みを活用されたい場合

例えば、父親Xが先祖代々受け継いできた土地について長男Aに継がせたいと考えています。ただ、長男Aには妻Cがいるものの、子供がいないため、長男Aが死亡した場合は、次男Bの子である孫Yに承継させたいと考えています。
しかし、遺言では長男Aに継がせることまでは出来たとしても、Aの死後は孫Yに相続させるとすることはできません。
孫Yに承継させるためには、長男Aが遺言で、受け継いだ土地については、Yに相続させる旨の遺言を作成する必要があります。
しかし、長男Aが遺言を作成しなかった場合、長男Aの妻Cへ相続される可能性があります。さらに妻Cが死亡すると、妻の両親や兄弟姉妹、甥や姪が法定相続人となります。そのため、先祖代々受け継いできた土地が妻の親族へと引き継がれてしまう可能性があるのです。
このようなに、不動産権利の分散を防ぎ、代々承継させていきたいような場合には、家族信託の利用が必要であると言えます。

判断能力が低下していなくても、不動産を含めた財産管理を任せたい場合

後見制度の場合、任意後見も法定後見も、判断能力が低下、つまりは、脳機能に問題が生じていなければ、利用(任意後見の場合は効力発生)が出来ません。そのため、身体や気力が衰えてしまっているといっただけでは、利用出来ないのです。この点、家族信託であれば、契約締結の時点から、財産名義を子供等に移せるため、管理を任せることが可能です。
なお、財産名義が移ると言っても、実質的な権利者(その財産による利益を享受出来る人)は変わらず、税務上の取扱いも同様であることから、財産名義変更に伴う贈与税や譲渡所得税,不動産取得税といった、いわゆる流通税は生じません。(但し、信託契約当時委託者と受益者が同一人である、「自益信託」の場合です)これは、パススルー課税と呼称されている家族信託の機能の一つです。
まだ判断能力はあるけれども、銀行に行ったり不動産の管理をしたりは体力的に疲れてしまうといった段階から、不動産を含めた財産の管理を、対外的にもしっかりした形で、信頼できる家族に任せてしまいたい場合には、家族信託が必要と言えます。
なお、「不動産を含めた」との文言を入れているのは、不動産がない場合には、そもそも家族信託が必要とまでは言えないためです。これにつきましては、後述の「家族信託が必要とまでは言えない場合」をご参照ください。

融資の必要性が想定される場合

相続税対策のことを踏まえ、不動産の大規模修繕やリフォーム工事、建替え等を、本人又は配偶者(配偶者が本人財産を相続するとした場合)の代において行うことを考えていて、実行に当たって融資の必要性が想定される場合には、家族信託が必要です。
任意後見、法定後見の場合、積極的財産活用が出来ないことから、建替えや投資性リフォーム工事を行うことは不可と考えられ、事業性融資はもってのほかです。大規模修繕については、保存行為である以上、可能と考えられはしますが、融資が必要である場合には、困難と考えられます。これは、ご高齢の方の場合、売却してしまった方が、本人の生涯生活の安定という方針からは選択しやすく、融資を受けてまで大規模修繕をするには、その客観的必要性が求められると考えられるためです。
以上より、融資が想定されるケースにおいては、家族信託が必要となります。

司法書士 菱田陽介

<strong>菱田陽介</strong>

司法書士の菱田陽介と申します。90年以上、大田区を中心に、地域に根差して司法書士業務を行ってきた司法書士法人の4代目です。先代の紡いできた歴史を受け止め、尊重しつつ、これからも地域の皆様のお役に立っていけるよう、時代に対応した、新たな司法書士としての形を模索しながら、日々邁進しております。

専門分野・得意分野
家族信託、税務、財産活
資格
  • 司法書士(法人登録番号:11-00632 登録番号:6212)
  • 簡裁代理(認定番号:1101045)
所属団体名
東京司法書士会
所属事務所
菱田司法書士法人
所属事務所の所在地
東京都大田区大森北1-15-14 第11三井ビル4階

活動実績・専門分野

2023年東京司法書士会民事信託業務検討委員会副委員長、2024年東京司法書士会資産凍結及び相続対策検討委員会委員長を務める等、家族信託、相続分野において高い実績。
大田区地域に根差し、他業種と連携の上、お客様の総合的な支援を行っている。

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